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プレー前に必読!建築家が教えるオリムピックナショナルGCの楽しみ方

クラブハウスを抜けると、湿った芝の匂いと共に、まるで一枚の風景画が目の前に広がる。
これが、設計者が我々プレイヤーに仕掛けた最初の『挨拶』です。

フェアウェイの設計図を読み解く、旅する建築家の一条景です。
私の記事は、あなたの飛距離を10ヤード伸ばすものではありません。
しかし、あなたのゴルフライフを10倍豊かにすることは約束します。

この記事を読んだ後、あなたの次回のラウンドは、ただ球を打つだけの18ホールから、設計者との対話を愉しむ知的な冒険へと変わるでしょう。
さて、この大地に描かれた壮大な建築作品に隠された謎を、一緒に読み解いていこうか。

壮大な旅への序章:クラブハウスという名の美術館

ゴルフ場の評価は、コースだけで決まるものではありません。
クラブハウスは、これから始まる18ホールの物語への期待感を高め、プレー後の興奮を静かに受け止めてくれる、重要な舞台装置なのです。

プレイヤーを迎え入れる「動線」の設計

建築家としてまず注目するのは、車寄せからエントランス、そしてロッカー、スタートテラスへと続く「動線設計」です。
これは単なる通路ではなく、プレイヤーの心を非日常へと誘うための計算された演出。
建築の世界では「シークエンス(連続性のある空間体験)」と呼びますが、つまりはプレイヤーを自然と次の目的地へ誘う『見えない廊下』のようなものです。

オリムピックナショナルGCでは、EASTとサカワ(旧WEST)で、このシークエンスの思想が異なります。
EASTのクラブハウスが持つ重厚感は、これから始まる伝統的なコースとの対話への序曲を感じさせ、一方、モダンなサカワのクラブハウスは、より創造的で大胆なプレーを予感させます。
ぜひ、クラブハウスの中を歩きながら、設計者がどのようにあなたの気持ちを高揚させようとしているのかを感じてみてください。

窓が切り取る風景画:借景というおもてなし

クラブハウスの窓は、単なる開口部ではありません。
コースの美しい風景を切り取る「額縁」です。
レストランやラウンジから見える景色が、いかに計算されて設計されているか、少しだけ意識を向けてみましょう。

これは「借景」という、日本の庭園でも用いられる伝統的な手法。
設計者はこの窓を通して、我々に何を見せようとしたのか。
おそらくそれは、単なるコースの眺めではなく、自然と調和したコース全体の美しさであり、これからあなたが挑む舞台の壮大さなのでしょう。
食事をしながらコースを眺める体験は、設計者からのおもてなしなのです。

2つの顔を持つ設計図:EASTとサカワ(旧WEST)の思想を読み解く

オリムピックナショナルGCの最大の魅力は、全く異なる設計思想を持つ2つのコースを味わえることにあります。
これはまるで、同じ美術館で古典絵画と現代アートを同時に鑑賞するような、贅沢な体験と言えるでしょう。

【EAST】ダイ・デザイン社が描く、伝統と戦略の曲線美

EASTコースを手掛けたダイ・デザイン社は、スコットランドの伝統的なデザインを重んじる設計集団です。
彼らの特徴は、大地が元々持っていたかのような、滑らかで優美なマウンドの造形美にあります。

しかし、その美しさに騙されてはいけません。
このうねるようなマウンドは、プレイヤーに視覚的なプレッシャーを与えると同時に、複数の攻略ルートを提示する『問いかけ』なのです。
良いコースは、良い建築と同じく、雄弁に語りかけてくる。
ダイ・デザイン社のコースは、伝統への敬意と、プレイヤーの知性へ挑戦する気概に満ちています。

【サカワ(旧WEST)】ジム・ファジオが仕掛ける、モダンなリスクと報酬

一方、サカワコースの改修を監修したジム・ファジオ氏は、「リスクと報酬」という哲学をコースに刻み込む現代の名匠です。
彼の言う「ファジオマジック」とは、池やバンカーといったハザードを効果的に配置し、プレイヤーに明確な決断を迫る設計のこと。

果敢にリスクを取って攻めれば大きな報酬(バーディーチャンス)が待っているが、少しでも躊躇すれば厳しい罰が待っている。
彼の設計は、まるで優れた現代建築のように、大胆な構造の中に繊細なディテールが隠されています。
プレイヤーの挑戦心という名の炎を、静かに、しかし確実にかき立てるのです。

【EASTコース編】建築家が選ぶ「設計者の挑戦状」3ホール

EASTコースには、ダイ・デザイン社からプレイヤーへの巧妙な「挑戦状」が随所に隠されています。
ここでは、特にその意図が色濃く表れた3ホールを読み解いていきましょう。

エーデルワイス6番:左に続くバンカーが創る「見えない壁」

グリーンまで左サイドに長く続くバンカー。
これを単なる砂場と捉えてはいけません。
これは、設計者がプレイヤーの心理を巧みに誘導するために創り出した「壁」なのです。
この壁の存在が、広いはずのフェアウェイを実際よりも狭く感じさせ、無意識のうちにスイングを窮屈にさせる。
設計者は、物理的な障害物だけでなく、こうした心理的な圧迫感をもデザインしているのです。

エーデルワイス7番:左ドッグレッグが試す「空間認識能力」

ティーイングエリアからグリーンが見えない、左ドッグレッグのホール。
なぜ設計者は、最短ルートを木々で隠したのでしょうか。
それは、プレイヤーの「空間認識能力」を試すためです。

建築の世界には「ヴォイド」という、何もない空間を意図的に創ることで、逆に空間の豊かさを生み出す手法があります。
このホールにおける森の向こう側は、まさにヴォイド。
見えない空間を想像し、自分のショットの弾道を正確にイメージできるか。
飛距離だけではない、ゴルファーの総合力が問われる設計です。

オーキッド17番:池とポットバンカーの「絶妙な配置」

グリーン手前に広がる池と、その脇を固める、あごの高いポットバンカー。
この2つのハザードは、単なる障害物ではありません。
これは、18ホールに渡る長い旅の終盤に、設計者が用意した「最終問題」です。

池を越える飛距離は十分か。
しかし、大きく打てば奥のバンカーが待っている。
手前に刻む安全策もあるが、それではパーを獲るのは難しい。
この絶妙な配置が生み出す緊張感こそ、設計者がプレイヤーに与えたかった最高のスパイスなのです。

【サカワコース編】建築家が選ぶ「自然との対話」3ホール

サカワコースは、ジム・ファジオ氏のモダンな設計思想と、この土地が持つ雄大な自然との対話から生まれました。
ここでは、その対話を感じられる3つのポイントをご紹介します。

富士を望む借景:壮大な自然と一体になるホール

サカワコースの最大の魅力は、なんといっても遠くに望む富士山の雄大な姿でしょう。
設計者は、この日本を象徴する山を、単なる背景としてではなく、コースデザインの主役として取り込みました。
特定のホールのティーイングエリアに立った時、まるで富士山に向かって打っていくかのような錯覚を覚えるはずです。
これは、壮大な自然をコースの額縁に取り込む「借景」の極致。
スコアカードには記されない、最高の贅沢がここにあります。

高低差の妙:リフトで繋ぐ「舞台転換」

コース内に存在する大きな高低差。
これをリフトで移動するユニークな体験は、単なる移動手段以上の意味を持ちます。
建築的に見れば、これは次のホールへの期待感を高めるための「舞台転換」の装置。
低い場所から高い場所へ視点が変わることで、プレイヤーの気持ちもリセットされ、新たな気持ちで次のホールへと向かうことができる。
この高低差がもたらすプレーのリズムの変化こそ、設計者が狙った効果なのです。

2段グリーンの罠:大地に刻まれた「微細な彫刻」

もしあなたが、頭脳的なプレーが要求される2段グリーンに出会ったなら。
それは単なる傾斜ではなく、設計者が大地に施した「彫刻作品」だと考えてみてください。
ミリ単位で計算された起伏は、ボールの転がりを支配するだけでなく、ピンの位置によってプレイヤーの思考そのものを支配します。
どこにボールを落とすのが最も賢明か。
力だけでなく、知性が試されるこの彫刻作品と、ぜひ対話を楽しんでください。

よくある質問(FAQ)

Q: オリムピックナショナルGCの設計者は誰ですか?

A: EASTコースはダイ・デザイン社、サカワコース(旧WEST)はジム・ファジオ氏が改修を監修しています。
ダイ・デザイン社は伝統的な造形美と戦略性を融合させるのが特徴で、一方のファジオ氏は「リスクと報酬」を哲学とし、挑戦心を煽るモダンな設計で知られています。
二人の巨匠の思想の違いを体感できるのが、このコースの醍醐味です。

Q: 建築家ならではの楽しみ方を教えてください。

A: ぜひ「光と影」に注目してみてください。
時間帯によって木々が落とす影の長さや形は変わり、コースの表情を一変させます。
特に早朝や夕暮れ時は、設計者が意図した地形の起伏がドラマチックに浮かび上がります。
これは、美術館で彫刻作品を様々な角度から眺めるのに似た体験です。

Q: 初心者でも建築的な視点で楽しめますか?

A: もちろんです。
まずはカート道に注目してみてください。
そのカーブの描き方、道の幅、素材など、すべてに設計者の意図が隠されています。
なぜこの道は林間を抜けるのか、なぜここではコース全体が見渡せるのか。
道を「プレイヤーを導くための廊下」と捉えると、スコアとは違う発見があるはずです。

Q: プレー前に古地図を見ると面白いと聞きましたが?

A: はい、私の密かな楽しみです。
造成前の地形図と現在のコース図を見比べると、設計者が元の地形をどう活かし、あるいは大胆に変えたのかが見えてきます。
例えば、元々あった沢を活かしてクリークにしたのか、丘を削ってフェアウェイにしたのか。
設計者との時を超えた対話が楽しめますよ。

まとめ

オリムピックナショナルゴルフクラブは、単なる競技の場ではありません。
ダイ・デザイン社とジム・ファジオという二人の巨匠の思想が詰まった『生きた美術館』です。

クラブハウスの動線設計から、コースの随所に仕掛けられた挑戦状まで、すべてがプレイヤーの体験を豊かにするために計算されています。
良いコースは、良い建築と同じく、雄弁に語りかけてくる。

次にあなたがこのコースに立つ時、フェアウェイの起伏や木々の一本一本が、設計者からのメッセージに見えるはずです。
その声に耳を澄ませば、あなたのゴルフは、きっと新しい冒険の扉を開くでしょう。

関連サイト

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